変わり果てた未来のルーデウス
何より恐ろしかったのは約50年後のルーデウスが現在のルーデウスとはまるで別人のようになっていたことです。
現在のルーデウスにはシルフィとロキシーがいます。
子どもがいて、家族がいて、ザノバやクリフといった仲間もいます。
前世では手に入れられなかった居場所を今世ではようやく手に入れました。
ところが、老デウスの姿からはその温かさをまったく感じられません。
同じ人物であるはずなのに、声や表情、立ち姿のすべてから、長い年月をかけて心を削られてきたことが伝わってきます。
ルーデウスの未来で一体何が起きたのか。
その答えはあまりにも残酷なものでした。
すべての始まりは一匹のネズミ
老デウスは地下室へ行ってはいけないと警告します。
もしルーデウスがヒトガミの言葉に従って地下室へ行けば、その後、ロキシーが魔石病にかかってしまうというのです。
その原因となるのが地下室に潜んでいた一匹のネズミでした。
そのネズミが食べ物に触れ、事情を知らないロキシーがそれを口にしてしまう。
本当にほんの小さな偶然です。
巨大な魔物に襲われるわけでもなければ、恐ろしい敵との戦いに敗れるわけでもありません。
日常生活の中にある見落としてしまいそうな出来事が最悪の未来の始まりになる。
ここが本当に怖かったですね。
ルーデウスはこれまで数多くの強敵と戦ってきました。
しかし、どれだけ強力な魔術を使えても、存在を知らない病気や日常に紛れ込んだ罠には対応できません。
力があるからといって、すべての危険から家族を守れるわけではない。
その現実を突きつけられた場面だったと思います。
ヒトガミが仕掛けた恐ろしい罠
そして何より恐ろしいのはこの出来事を仕組んだ元凶が、これまでルーデウスに助言を与えてきたヒトガミだったことです。
ヒトガミには以前から怪しい部分がありました。
それでも、その助言によってルーデウスが助けられた場面があったのも事実です。
だからこそルーデウスもヒトガミを信用していないと言いながら、完全には疑っていませんでした。
そんなヒトガミが今回、ルーデウスを罠にはめようとした。
しかも、その方法は直接攻撃するというものではありません。
地下室を確認してほしい。
ヒトガミが頼んだのはそれだけです。
しかし、その小さな行動から偶然を積み重ね、最終的にはルーデウスの大切なものを奪おうとしました。
これまで何度も正しい助言を与えてきたことさえ、今回の頼みを聞かせるための準備だったのではないか。
そう考えると、ヒトガミが一気に恐ろしい存在に見えてきます。
エリスとのすれ違い
老デウスはロキシーのことだけではなく、ナナホシやシルフィの未来についても語りました。
さらに、エリスとの関係にも触れます。
現在のルーデウスはエリスに突然置いていかれたことで深く傷つきました。
自分はエリスに拒絶された。
エリスは自分を必要としていない。
ルーデウスはそう思い込んでいます。
そのため、老デウスからエリスに手紙を書くよう言われても、すぐには受け入れられません。
しかし、二人は互いを嫌っているわけではありません。
ただ、言葉が足りなかった。
エリスはルーデウスの隣に立てるほど強くなるため、修行へ向かいました。
ところが、その気持ちはルーデウスに伝わっていません。
そのすれ違いが、未来では取り返しのつかない後悔につながってしまいます。
老デウスの話によれば、未来のエリスはルーデウスと対立しながらも、彼が危険に陥るたび、陰から助けていたようです。
何度拒絶されても、エリスはルーデウスを見捨てなかった。
老デウスは長い時間を経て、ようやくエリスの本当の気持ちに気づいたのでしょう。
だからこそ、現在のルーデウスには同じ間違いをしてほしくない。
老デウスの言葉からは、エリスに対する強い後悔が伝わってきました。
老デウスが伝えた三つのこと
老デウスは現在のルーデウスがやるべきことを三つにまとめました。
一つ目は、時間移動についてナナホシに相談すること。
二つ目は、エリスに手紙を送ること。
三つ目は、ヒトガミを疑いながらも、すぐには敵対しないことです。
ここで興味深いのはヒトガミを倒せとは言わなかったことです。
老デウスほどヒトガミを憎んでいる人物なら、すぐに戦えと言ってもおかしくありません。
それでも敵対するなと警告しました。
つまりヒトガミは現在のルーデウスが正面から対抗できるような相手ではないのでしょう。
時間移動を実現させるほどの力と知識を得た老デウスでさえ、ここまで警戒している。
ヒトガミが一体どれほど危険な存在なのか、非常に気になります。
これからのルーデウスはヒトガミを疑っていることを悟られないようにしながら、その目的を探る必要があります。
単純な力比べとは違う、互いの考えを探り合う戦いが始まったように感じます。
過去の自分に未来を託した老デウス
多くのことを伝えた老デウスにも残された時間はほとんどありませんでした。
老デウスは自分が長年書き続けてきた日記を現在のルーデウスに託し、その役目を終えます。
老デウスは自分自身を救うことはできませんでした。
それでも過去の自分へ警告を届けることで、別の未来を作ろうとした。
何十年も苦しんだ末に、最後の希望を現在の自分へ託したのだと思います。
その場面で特に印象的だったのが扉の向こうにいたシルフィとロキシーです。
老デウスが失ってしまった大切な二人がこの時間ではすぐ近くにいます。
老デウスは予見眼を使い、最後に二人の姿を確認していたようにも見えました。
現在のルーデウスなら、自分と同じ未来を歩まずに済むかもしれない。
今度こそ二人を守れるかもしれない。
老デウスのわずかな表情にはそんな安心と願いが込められていたのではないでしょうか。
自分の最期を自分で見送るルーデウス
ここまで多くのことを聞かされた現在のルーデウスも大変です。
シルフィやロキシーを守らなければならない。
エリスに手紙を書き、ナナホシにも相談しなければならない。
ヒトガミに警戒していることを悟られないよう、今後の行動も考える必要があります。
それだけでも大変なのに未来の自分を自分で見送らなければならない。
自分の最期を目の前で見たうえ、その事実をシルフィやロキシーに簡単に話すこともできません。
これほど重い秘密を一人で背負わなければならないルーデウスには、さすがに同情してしまいます。
「終わりと始まり」
今回の題名は「終わりと始まり」でした。
これは、いくつもの意味が込められた題名だと思います。
老デウスにとっては、長く苦しい人生の終わり。
現在のルーデウスにとっては最悪の未来を回避するための戦いの始まりです。
さらに物語全体で見れば、ヒトガミの助言に従って行動する物語が終わり、その本当の目的を疑う物語が始まったとも考えられますね


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